温泉たまごを作る ― 低温調理の「イ」
温泉たまご=低温調理
半熟たまごとは違い、白身がゆるく黄身が固まっているものが温泉たまごです。
そのまま食べてもいいですし、カレーライスや丼などの付け合せとして活躍します。
温泉たまごには、低温調理の肝が詰まっています。書道における「永」の字みたいなものです。
低温調理とは、という難しいところに触れる前に、まずは温泉たまごを作ってみましょう。
用意するもの
- 卵
- 鍋にたっぷりのお湯
- 温度計
卵は2つぐらい。
お湯は大きな鍋に沸かします。3Lぐらいあればいいでしょう。カレー鍋ぐらいですかね。
温度計を使って、湯温を70℃にします。多少高くてもいいです。
調理
卵をお湯の中に入れ、蓋をします。30分待ちましょう。以上です。
はい。簡単です。が、これだって立派な低温調理です。
できたら早めに食べましょう。ダシや醤油をかけて……。
保温しなくていいの?
今回は温度維持をしていませんが、30分の短時間加熱なのでOK。
卵に対して十分に水の量があれば、蓋だけで保温しなくても問題ありません。
ただし、調理するたまごの数が多かったり、お湯の量が少ない場合は保温する必要がでてきます。
低温調理のポイント
低温調理に重要なポイントは温度と時間の2つです。
温度
なぜお湯の温度を70℃にしたのでしょうか。
それは、卵の黄身と白身で、固まる温度が違うからです。
そもそも、卵が固まるのは加熱によって卵白や卵黄に含まれるタンパク質が変性するためです。
タンパク質には無数の種類があり、生物の体を構成しています。
卵白と卵黄は、それぞれ含まれるタンパク質が異なるため固まる温度が違うのです。
それぞれの固まる温度をまとめました。下の表を見てください。
卵黄 | 65~70℃ |
卵白 | 75~78℃ |
このように、黄身の方が固まる温度が低いです。
この変化は、急峻なものではありません。白身を75℃に加熱した場合、全部固まってしまうわけではなくて、じわりじわりと固まっていきます。
温泉たまごでは、加熱により卵白の一部が変性して、透明だったものが白く濁ります。
結果、卵黄はしっとりと固まっていて、おいしい温泉たまごができあがります。
時間
では、なぜ30分放置したのでしょうか。
簡単です。芯まで温まらないからです。
ものに温度が伝わるためには、それなりに時間がかかります。
温泉卵ではじっくり加熱して、中心にある黄身を70℃に到達させたいのです。
半熟卵との対比
ゆで卵では、熱が伝わるのに時間が必要なことを利用し、芯まで火が通っていない状態を故意に作ることで食感の違いを実現しています。
卵を茹でる事によって、お湯の熱が卵の表面からだんだんと中心に熱が伝わっていきます。
鍋のお湯の温度は一定(熱湯、100℃近く) なので、卵の中心温度(茹で加減) は茹でる時間に依存します。
一方、温泉たまごは十分な加熱時間を確保することで、芯まで一定の温度にすることと、卵白と卵黄の性質の違いを活用して
食感の違いを実現しています。
お湯の温度は一定(温泉たまごの場合は70℃程度) なので、十分な時間継続して加熱することで、卵の中心温度は湯温に依存します。
まとめ
低温調理では、温泉たまごをつくるときのように「低温」で「長時間」の加熱が重要になります。
温度は食材に適した温度で加熱する必要があります。温泉たまごを作りたい場合は70℃で加熱しますが、
そもそも固茹で卵を食べたい場合は78℃以上で加熱する必要があります。
また、中心まで十分に加熱されるだけの時間は(少なくとも)加熱する必要があります。
食中毒の危険は?
今回雑な加熱をしていますが、これは、卵が生食できるのを前提としているからです。
これだけ手軽なのは、卵を使っているからで、肉を使う場合はもう少し丁寧にしなければなりません。
肉で同じことをしてはダメです。
卵の中は基本的に無菌です。3万個に1つ程度サルモネラ菌が混入している危険があるそうですが、
卵の賞味期限はサルモネラ菌の混入があったとしても生で食べられる期間を示しているそうなので、よっぽど大丈夫でしょう。
卵とサルモネラについて | 食中毒 | お役立ち情報 | 株式会社 東邦微生物病研究所
ただし、ひび割れた卵はその限りではないので、十分加熱して食べましょう。
卵じゃなくて、肉を調理したいんだけど?
それは、次回の低温調理の「ロ」で説明したいと思います。
では今回はここまで。
1000円で始める低温調理2
ローストビーフを作る
前回の記事で、必要な道具と材料がすべて揃ったので、さっそくローストビーフを作ってみましょう。
低温調理では失敗とはほぼ無縁です。肩の力を抜いてやりましょう。
理論は二の次です。
下ごしらえ
牛肉ブロックに下味を付けます。
塩とこしょうをひとつまみ程度、牛肉に擦り込みます。
塩が多すぎるとしょっぱくて取り返しがつかないので、迷ったら少なめを心がけます。
塩を振ると水分が出てくるので、キッチンペーパーとラップで包んで、冷蔵庫で30分程度置きましょう。
お湯を用意する
冷蔵庫で肉を寝かせている間、加熱用容器に65℃のお湯を用意します。
温度計で計りながら水を足しましょう。
このあとも下準備のつづきがありますので、ぬるくなることを考えて少し熱めにしておきます。
なるべく多めのお湯を用意するのがコツです。
パッキング
お湯の用意ができたら、冷蔵庫で寝かしておいた牛肉ブロックを取り出し、
キッチンペーパーとラップを外してジッパー付き保存袋に入れ、できるだけ空気を抜いて、しっかり封をします。
加熱・温度管理
パッキングした肉を加熱していきます。低温調理の肝となる工程です。
パッキングした肉を65℃に加熱したお湯に入れます。
このあとしばらくの間、水温を60℃以上65℃以下にキープします。
加熱の時間は食材の大きさ、厚さによって違いますが、500gのブロックで4時間が目安です。
ここでは特に温度に注意してください。60℃以上65℃以下をキープするのが重要です。
温度を上げすぎると、火が通り過ぎてローストビーフではなくなってしまい、逆に温度が下がってしまうと、食材が傷んでしまいます。
水温が下がってきたら、鍋や電気ケトルなどで熱湯を作り、たし湯をしながら温度をキープします。
たし湯ばかりだといつか溢れてしまうので、多い分は汲み取って溢れないようにしましょう。
汲み取ったお湯をそのまま沸かすと、若干ですが光熱費の節約になります。
温度の管理は多少面倒に感じるかと思いますが、機器のコストを抑えているため、仕方ないと思って割り切ってください。
思ったよりも、お湯は冷めにくいのでそれほど手間はかかりません。
焼き目付け
フライパンで焼き目を付けます。
ここまでの工程では、「焼いて」いないので当然焼き目が付くことはありませんでした。
ここで焼き目を付けることで香ばしさが追加されて、より美味しくなります。
フライパンを使って、中火から強火で一気に表面に焼き目を付けます。
火の通り過ぎは心配しなくてOKです。分厚い肉ですから中まで火が通る前に十分な焼き目がつきます。
焼き目を付けたら、ラップやアルミホイルで包んで10分ほど寝かせます。
寝かせることで、予熱で中心まで熱が伝わって温かくなります。
切り分け
寝かしたら、包丁で薄くスライスします。
肝心の火加減はどうでしょうか。桜色の断面になっているでしょうか?
ローストビーフは、切った直後はぼんやりとした桜色ですが、少し時間がたって空気に触れると、鮮やかな色に変化します。
食べる
ローストビーフがたくさんできました。(実際にはローストしていないのですが)
好きな味付けでお召し上がりください。
しっとり柔らかな食感と、肉の旨味を堪能できると思います。丼にするのもよし、サンドイッチにするのもよしです。
まとめ
このように、1000円の初期投資で低温調理を楽しむことができます。
この方法では、機器を買うお金の代わりに時間を使っています。多少手間がかかることは仕方ないです。
ひと月に一度くらいの調理頻度であれば、このくらいの手間がかかっても、十分我慢できるのではないでしょうか。
「肉はうまいが、耐えられん!/面倒だ!」という人は、低温調理器を買ったほうが良いです。
次回は、低温調理とはなにかを解説したいと思います。
1000円で始める低温調理1
はじめに
最近、低温調理という調理方法をよく耳にします。
低温調理とは、加熱温度と時間を管理して、従来の調理より低温で行う調理のことです。
定温調理とか適温調理とか恒温調理とも呼ばれています。
低温調理の特徴
この調理方法の特徴は、特に肉料理に威力を発揮する点です。
ローストビーフや角煮などの肉メインのレシピが、Web上で多く紹介されています。
仕上りのやわらかさや放置しておける手軽さもあり、低温調理のレシピは日常の料理レパートリーに追加しておきたいものです。
問題
低温調理の一番のネックは、導入コストにあると思います。
低温調理は専用の機器を使って調理をするのですが、この機器が割高です。
手軽にできるように炊飯器の保温機能を使った簡易なレシピが紹介されていたりしますが、仕上がりは本格的な低温調理には及びません。
失敗も多く、火加減は微妙な仕上がりになることもあります。
やってみたい
低温調理はあくまで調理方法なので、専用の機材がなくても代替の方法によって再現が可能です。
魅力的な低温調理にチャレンジしてもらうため、安価に(具体的には1000円以内)で実現しましょう。専用の機器はつかいません。
今後、何回かに分けて1000円ではじめる低温調理を解説していきます。
とりあえずやってみましょう。
準備するもの
1000円の予算で以下のものを準備します。
私が使っている機材も紹介しておきます。
- 温度計
- 発泡スチロール製クーラーボックス
- ファスナー付き保存袋
温度計
低温調理では加熱の温度を管理するため、水温を計るための温度計が必要です。
どんなものでもいいですが、私はタニタのスティック温度計を使っています。
発泡スチロール製クーラーボックス
低温調理では素材に直接火を当てず、お湯を介して加熱します。
お湯の温度を数時間維持する必要があるので、断熱性があり、お湯が冷めにくいような容器が良いです。
入手がかんたんだったので、ダイソーの発泡スチロール製クーラーボックスを準備しました。150円です。
ファスナー付き保存袋
ジップロックのようなジッパー付き保存袋を用意します。
サイズは大きめでジッパーが二重になっているのがおすすめです。
そのほか
食材などを適宜用意しましょう。
今回はローストビーフを例にしますので、牛肉を用意します。
その他、調味料などを準備しましょう。
今回はここまで
次回は、実際の調理手順について説明していきます。
低温調理用のコントローラを作る5
概要
調理コントローラのプログラムの雑な設計と実装を紹介します。
設計
低温調理に求められるのは、温度管理と時間管理です。この内時間管理については、プログラムでやる必要が無いかなと思います。調理終了時には、加熱槽からパックを取り出さなければならないのですが、これに関してはコントローラは何もできません。せいぜいアラーム音をならすぐらいでしょう。
ここでは割り切って、温度管理のみを行うコントローラを実装します。
制御方法
制御方法は、いろいろなものがありますが今回は簡単なヒステリシス制御と、熱容量による制御の二種類を実装します。
ヒステリシス制御
ヒステリシス制御は簡単な制御で、ヒータがONになる温度とOFFになる温度を設定し、現在の温度によってヒータのON-OFFを切り替えます。
閾値が1つのときとくらべてノイズに強く、制御対象の詳細がわからなくてもある程度の制御ができますが、オーバーシュート(加熱しすぎ)が発生するという弱点もあります。
今回使用している熱源は、150Wのヒータなのでオーバーシュートはそれほど気にしなくてもいいでしょう。これを一つ目の制御方法として採用します。
熱容量による制御
今回の制御対象は水温です。一般に、物質の温度とエネルギーの関係は、以下の式で求めることができます。
熱量Q[J] = 熱容量C[J/K] * 温度差⊿T[K]
そして、ヒータが発生する熱量は以下の式で求めることができます。
熱量Q[J] = 電力P[W] * 時間t[sec]
さらに、ヒータの電力と熱容量は調理中に変わることはありません。つまり、有る時間加熱したときの温度変化は以下の式で求めることができます。
温度差⊿T[K] = 係数 * 時間t[sec]
ここで係数は水の量や食材によって、調理毎に異なるため以下の2ステップをおこなえば水温が制御できます。
- 一定の時間加熱し、その間の上昇温度によって係数を算出する。
- 目標値と現在値の差(と係数)から、必要な加熱時間を算出する。
このうち2を、一定時間ごとに行うことにより目標の温度にすることができます。時間は水晶発振子によって取得できるので、簡単に実現できそうです。これを二つ目の制御方法として実装します。
PID制御
これも実装したいのですが、今回は見送り。(上の2つで調理ができてしまったので)
実装
実装は特に書くこともありません。Cでサクサク書くだけです。
機能紹介・操作
というわけで、完成したコントローラの紹介です。基本操作はエンコーダで選択、Aで決定、Bでキャンセルです。
電源を入れるとメインメニューが表示され、以下の4メニューがでます。それぞれを選んでAで決定します。
- Temp Monitor
- Heat Control
- Hysteretic
- Settings
モード紹介
Temp Monitor
温度計です。温度センサーの現在値を表示します。
Bでメインメニューに戻ります。
Heat Control
熱容量による制御をします。目標値を設定すると、係数の計算後、目標温度になるまで加熱を行います。目標温度に到達したら、以降その温度を維持します。
Bでメインメニューに戻ります。
Hysteretic
ヒステリシス制御をします。ヒーターをONにする温度(lower)とヒーターをOFFにする温度(upper)を指定すると、温度に応じてヒーターのON-OFFをおこないます。
Bでメインメニューに戻ります。
Settings
各種設定を行います。
今はパイロットランプ(ヒータON時と、センサー読み取り時のインジケーター)の有効無効のみが設定できます。
(そのうちPIDのパラメータとかを設定できるようになるはず)
HEX
ここに置きます。
ThermostaticCooker - Google ドライブ
書き込みはISPMK2をつかっている場合は以下のコマンドで
avrdude.exe -pm328p -cavrispmkII -Pusb -u -Uflash:w:cooker_v010.hex:a -Ulfuse:w:0xd2:m
低温調理用のコントローラを作る4
概要
完成した基板に部品を実装して、低温調理用のコントローラを作成します。
コントローラを組み立てる
基板が届きました
基板が届きました。発注から到着まではわりと早かったです。これに部品を実装してコントローラを完成させます。
使用する部品の調達
使用するパーツは、設計時にすでに選定しています。以下のパーツを使います。いろいろ忙しかったこともあり、秋月電子の通信販売で部品の調達を行いました。別に秋月じゃなくてもいいですが、私は秋月大好きマンなので贔屓にしています。
部品番号 | 数量 | 部品名 | 通販コード |
---|---|---|---|
IC | 1 | ATMEGA328P-PU | I-03142 |
Q1 | 1 | 水晶発振子 32.768KHz | P-04005 |
LCD | 1 | LCDモジュールAQM1602A-RN-GBW | P-08779 |
J1 | 1 | 2.1mm標準CDジャック 基板取付用 | C-00077 |
X_TEMP1 | 1 | ターミナルブロック 3ピン | P-01307 |
X_HEATER | 1 | ターミナルブロック 2ピン | P-01306 |
S1,S2 | 2 | タクトスイッチ | P-03647 |
ENC | 1 | ロータリーエンコーダ | P-06357 |
LED1~3 | 3 | 5mm LED | |
R1,R3,R7 | 3 | 470Ω カーボン抵抗 1/6W | |
R2,R4~6 | 4 | 10KΩ カーボン抵抗 1/6W | |
R8~11 | 4 | 100Ω カーボン抵抗 1/6W | |
C1~3 | 3 | 1μF 積層セラミックコンデンサ | |
C4~8 | 5 | 0.1μF 積層セラミックコンデンサ | |
JP | 1 | 2×2ピン 2.54mmピッチ ピンヘッダ | |
- | 2 | ジャンパピン 2.54mmピッチ | |
CON1 | 1 | 2×3ピン 2.54mmピッチ ピンヘッダ | |
CON2 | 1 | 1×6ピン 2.54mmピッチ ピンヘッダ |
はんだ付け
特段いうことも無いです。背が低くて、熱に強い部品から実装していきます。一号機は色々する予定なので、AVRは直接はんだ付けせずにICソケットを噛ませます。LCDと水晶発振子は、はんだだけだと固定強度に不安があるので、別途ホットボンドで固定しました。
はんだ付けがおわるとこんな感じ。温度センサも接続しています。
はんだ付けの確認
検図済みですし、特に検証はしなくていいでしょう。はんだ付けが失敗していないかだけ確認します。
動作確認
ジャンパの設定
ACアダプタの極性がどちらでもいいようにジャンパを設けました。センタープラスのアダプタを使うときは1-2、3-4と接続します。
温度センサの接続
Amazonで買った温度センサを接続します。左のコネクタにそれぞれ接続します。大体黒がGND、赤がVCCです。
プログラムの書き込み
ここまできたら、プログラムを書き込みます。CON1にAVRライタを接続してPCからプログラムを焼きます。
これでコントローラの完成です。
プログラムの実装と中身については別途紹介します。