はるまきパタパタ

料理とDIYについて色々書きます。

低温調理の温度のホントの所

低温調理のどこまで知っていますか?

一番最初に言っときますが、低温調理で53℃以下はどうかんばってもアウトです。
菌を培養して食べてるのに近いので、やめましょう。


低温調理、流行っていますね。去年もですが、今年も色んな所から低温調理の話が聞こえてきます。
いろいろな料理系のWeb記事で低温調理の方法とか魅力が紹介されていて、低温調理好きとしては嬉しい限りです。
ただそれらの記事は、低温調理のやり方だけ書かれていて、肝心の殺菌のことについて触れている事が少ないので、いろいろと危惧しています。

45度で一時間とか…。それ、雑菌とか食中毒原因菌を増やしてる可能性ありますよ。
自分で食べるなら止めませんけど、わざわざ危ないことしなくてもいいですよ。

今回は、低温調理で重要な殺菌について再度説明したいと思います。
低すぎる温度で加熱して、腹を壊さないように限界温度の理解の助けになればと思います。

なぜ殺菌が必要なのか

ズバリ、食中毒になるからです。

自然界には至る所に菌が生息しています。
もちろん普段口にする食品にも付着しています。

大体の菌は、胃酸や免疫で無害化されます。
しかし、もともとの数が多かったり強いやつがいた場合、人間の抵抗力を超えて感染します。

なので、食品中の有害な菌類を加熱によって無害な数まで低下させなければなりません。
これが殺菌が必要な理由です。

基本の殺菌

方法は色々ありますが、料理では加熱殺菌が一番使われます。
菌も生き物ですから、加熱するとタンパク質が変性したり酵素が失活したりして、死にます。

菌が原因の食中毒の予防には75℃1分以上の加熱が、ウイルス性の食中毒の予防には85℃1分以上の加熱が必要とされています。これが加熱殺菌の基本です。

でも、低温調理ではここまで加熱できません。
詳しい理由は以下を読んでもらいたいですが、せいぜい66℃の加熱までです。
harumaki-flipflop.hatenablog.com

低温殺菌

低温調理では基本の加熱を行えませんが、殺菌は可能です。

人間を例に考えてみましょう。あなたは、42℃のお風呂に何分入れますか?
10分程度なら入ることはできるでしょうけど、1時間入っていたらどうなるでしょうか?10人いたら8人ぐらいは倒れそうです。

では2時間なら?3時間なら?

菌も同じで、短い時間は耐えられるけど長時間は耐えられない温度で、長時間加熱してあげると殺菌が可能です。
低温調理では、こんな感じで温度と時間を管理して殺菌します。

菌にとっての適温の危険性

低温調理の際に、温度を下げすぎると殺菌どころか菌を培養する事になります。

まず、菌にとっての最適温度は結構幅広いので、53℃付近までは増殖と生存を続けます。
53℃以下はどうかんばってもアウトです。殺菌できません。

人間の体温付近が一番やばいです。居心地いいので、バンバン増えます。
45℃で一時間とか、加熱しちゃダメです。54℃以上での加熱が必須です。

加熱の時間と温度

さて、低温殺菌に必要な加熱温度時間ですが、これも菌の種類に依存します。
とてもじゃないですが、調査しきれません。

ということで、ここからは権威に頼りましょう。
日本と米国の食品基準を見てみます。ここに最低限必要な加熱時間が書いてあります。

注意事項です。両方の基準で共通することは、以下の二点です。

  • 殺菌対象全体がその温度で維持されている時間を表記している。
  • 肉塊のまま加熱する必要がある。

前者は、冷たい肉と温かい肉、大きい固まりと小さい塊で必要な加熱時間が違うよということを言っています。
後者は、挽肉とかスライスした肉は対象外(規格外)だよということを言っています。

温度と時間については多少の差があるものの、だいたい一緒です。
米国基準の方が低めの温度での加熱時間が短いです。どちらを信用してもいいと思います。

日本における基準

日本の食品関係で偉いところは、厚生労働省です。

ここでは厚生労働省が出している食品衛生法関連の「食品、添加物等の規格基準」というものに、基準となる加熱時間が載っています。
www.mhlw.go.jp

この規格基準と言うのは、「食品を作るときは、こういう基準で調理してね」というガイドラインみたいなものです。
食品別に基準が分類されていて、「食肉製品」のうち、「特定加熱食肉製品」の項目を参照します。

これが低温調理した肉に適した分類です。読み進めていくと、下記のような記述があります。


製品は、肉塊のままで、その中心部を次の表の第1欄に掲げる温度の区分に応じ、同表の第2欄に掲げる時間加熱し、又はこれと同等以上の効力を有する方法により殺菌しなければならない。

第1欄 第2欄
55° 97分
56° 64分
57° 43分
58° 28分
59° 19分
60° 12分
61° 9分
62° 6分
63° 瞬時

米国の食品基準

アメリカの食品基準を見てみましょう。
アメリカの食品関係で偉いところは、FDA(Food and Drug Administration)です。

で、「Food Code」という食品衛生基準があります。
www.fda.gov

4年毎に更新されているみたいですが、まだ更新されていなかったので、Food Code2013を参照してみます。

やたらでかくて長いPDFなので、読むのが大変ですが、必要なのは、Chapter 3-401.11です。
日本のと同じような表が載っていますね。転載するとこうです。


As specified in the following chart, to heat all parts of the FOOD to a temperature and for the holding time that corresponds to that temperature:

Temperature°C (°F) Time
54.4 (130) 112m
55.0 (131) 89m
56.1 (133) 56m
57.2 (135) 36m
57.8 (136) 28m
58.9 (138) 18m
60.0 (140) 12m
61.1 (142) 8m
62.2 (144) 5m
62.8 (145) 4m
63.9 (147) 134s
65.0 (149) 85s
66.1 (151) 54s
67.2 (153) 34s
68.3 (155) 22s
69.4 (157) 14s
70.0 (158) 0s

まとめ

53℃以下はどうかんばってもアウトです。

食品基準にも54.5℃以下は乗っていないことがわかりました。
54.5℃ならば、(予熱時間を除き)2時間以上加熱すれば良さそうという裏付けも取れました。

時間がかかりすぎるので、冒険したくない場合は、2℃ぐらい設定温度上げといてもいいと思います。
測定誤差・機器誤差もあるので。

危険な温度を避けて、安全な低温調理ライフを楽しみましょう。

こちらもよろしくおねがいします

booth.pm

Boothにショップを作ってみました

デジタル版販売開始

先日の記事で予告したとおり、既刊の「1000円で始める低温調理」については電子版の販売を開始しました。
よかったら、購入してください!
sr-ff.booth.pm

プラットフォームどこにしようかなと思いましたが、Boothにショップを構えることにしました。
印刷やデータの取り回しのことを考えると、PDFでの販売が良さそうなのと、
今後物理媒体を販売することもあるだろうと考えてBoothにしました。

もし読んでいただいて、物足りないとかあれば感想ください。
デジタルデータだと制限ないので、できる限りでどんどん加筆していく方針です。

コミケ93参加報告

報告とお礼

C93の3日目東ピ28ーbにて、サークル参加しました。本サークルでは二度目、人生では四度目の参加になりますが、何度出ても良い刺激になります。本日お越しいただいた皆様、ありがとうございました。

 

新刊および既刊の増刷共にそれなりの部数を用意したつもりでしたが、おかげさまで完売いたしました。

早めに完了してしまったのでやはり入手できなかった人には申し訳ありません。部数の見通し・調整って難しいですね…。マーケティング力がほしい。

 

今回までの既刊分について

本日の反省会にて、「既刊分に関しては、Booth等で販売しては?」とのアドバイスを出たので、「1000円で始める低温調理」については近日中に販売したいと思います。

電子データ準備中につき、お待ち下さい。1月中には開始したい。

 

[2018/1/3追記]

販売開始しました。以下のサイトです。

sr-ff.booth.pm

 

今回の新刊(レシピ本)については、レシピ部分をブログやTwitterで順次公開していく方針です。レシピなのでCookpadでも良さそうですが。

 

今後の活動

C94の申込セットは入手済みで、申込予定です。

 

悩みとしては、「はるまき」成分ばかりで、「ぱたぱた」してない事。

サークル名の「はるまき」は料理で、「ぱたぱた」はFlipFlopの事を示しています。つまり、電気・電子・デジタル分野。後者の進捗が薄い。ニッチなのもあるけど…。

 

というわけで、夏に向けては以下のテーマがいいんじゃないかなー、と思案中です。これは!と思う物があれば反応ください。やる気がみなぎります。

 

料理ジャンルのアイデア
  • ネギ・ミョウガを始めとした、薬味のレシピ・使い切り方

薬味が大好きなので、それに関するレシピや食べ方等を紹介するとか、そういうのをやってみたい。チャーシューネギまみれとか、みんな好きでしょ?たぶん。

 

  • 「ひとり暮らしでも」料理シリーズ

一人暮らしのときに積極的に料理していたので、その時のいろいろが出せるかも。

極小キッチン+カセットコンロでもできる料理とか?

 

デジタルとかのジャンルのアイデア
  • 組み込みRTOSを組んでみる

自分で言っといてなんですが、めんどくさい。てかニッチすぎる気がする。

 

  • FPGAで自作CPUを設計する(HDL/非HDL)

大学のときにやったなー。いまなら命令セットからパイプラインまでできそうな気がする。

 

  • {経験|投資|知識}ゼロから始めるPCB作成

基板作成って、今や簡単にできるんでやってみませんか本。私はEagle派なのでEagle使ってPCB作って、手軽な作成サービスの品質比較とかできるのでは。デザインルール依存だけど、明らかにアレな基板も返ってくることがあるし。

 

 

低温調理は?

低温調理については、引き続き楽しくやっていきます。質問などあれば当ブログかTwitterに投げていただければ大層喜びます。 そのうちレシピをまとめます。

 

 

今後共よろしくお願いします。

 

 

冬コミ(C93)参加します!

冬コミ参加します

夏に引き続き、冬コミに参加いたします。
原稿も無事完了しましたので、告知させていただきます。

スペース

日曜日東地区 "ピ " 28b

お品書き

今回は新刊1冊と、既刊を手直ししたものを1冊です。

大物野菜を使い切る本

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C93新刊、レシピ本です。

一人暮らしって、自炊に厳しい環境です。
頑張って自炊していても、野菜が不足になりがちですよね。

肉は小分けのものを買えばいいけど、野菜はそうはいきません。
特に大物野菜。キャベツとか1/2でも持て余すのに、まるまる一つなんて買えるわけが無い。

そもそもキッチン狭いから、まな板置いたら作業スペースなくなってしまうし…。
キャベツを置くスペース無いよ。包丁もできることなら使いたくない。

そんなあなたでも、コスパ最強な大物野菜を使い切ることができるはず。

キャベツやレタスは包丁使う必要無いですよね。手でちぎればいいし。
そんな感じで大物野菜のお手軽レシピを、5品目15品を紹介しています。

1000円で始める低温調理

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技術書(?)です。

低温調理は魅力的なのですが、機材の導入コストが高いのが難点です。
Anovaとか高いし、コンベクションオーブンとかもっと高い。

そもそも特殊な調理家電って、買ったはいいけど使用頻度が低くて、物置にしまいこんでしまうことが多いんですよね。
ノンフライヤーとか、ヨーグルトメーカーとか、同じような経験ありませんか?

本書はタイトル通り、1000円から低温調理を始める方法を解説します。
特殊な道具は使いません。飽きた場合も諦められる金額なので、飽きっぽい人でも、とりあえず低温調理試してみたい人でも低温調理に挑戦できます。

手法自体は当ブログでも紹介している手法ですが、原理とか殺菌についてとかの解説を多く載せています。

構想時はレシピ本のつもりでしたが、レシピは低温調理チュートリアルとしてのローストビーフのみ。技術書寄りになりました。
本文はTexで作成したという、理系仕様。文書量は多めです。

お立ち寄りください

当日は、もちろん本人いますので、質問などなどありましたらお声掛けください。

それではよろしくお願いします。

低温調理での殺菌について ― 低温調理の「ハ」

加熱の効果

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料理において、加熱は切っても切れない大切な工程です。
加熱には大きく2つの役割があります。

食品の味や栄養の向上

一つ目は、食品の味や栄養を向上させることです。肉を焼いたり、米を炊いたりすることで味がよくなり、消化吸収もしやすくなります。

殺菌

そしてもう一つが、殺菌して食中毒を防ぐことです。

低温調理は自己責任とか、危ないとか言われているのは、殺菌が不十分になることがあり、場合によっては細菌を培養してしまうことがあるからです。

殺菌

殺菌とは、その名の通り菌を殺すことです。
ただし、すべての菌を殺すという意味ではありません。家庭の調理環境では、完全に無菌にするような殺菌は、不可能というより無意味です。
食器や食卓を始めとした、いたるところに菌は存在しますし、そもそも、人間それほどヤワではありません。

ある程度の菌を口にしたところで、強力な胃酸や、免疫により無害化されます。
人間の抵抗力を超える量や質の菌を摂取してしまった場合に、食中毒になります。
お年寄りや子どもは、この抵抗力が弱いので、食中毒にかかりやすかったりします。

要は無菌である必要はありません。存在する菌が十分に少なければ発症しません。
ちなみに、すべての菌を殺すという意味では「滅菌」という言葉を使います。

加熱すると殺菌できる

食中毒の原因となる細菌は生物ですから、その生命活動はタンパク質や酵素によってなりたっています。
タンパク質は加熱してしまえば変性し、本来の役割がを果たさなくなります。
結果、細菌は死滅します。

低温調理でも低温とはいえ加熱しているので、殺菌できていそうな気がします。

低温調理では殺菌できない?

前回の記事で触れたことをを思い出してみましょう。

そもそも低温調理で温度を管理しているのは、変性してほしいタンパク質だけ変性する状態を作り上げるためでした。
つまり低温では、変性しない・しにくいタンパク質が存在します。
そのため、通常の(火を使った)加熱よりも殺菌力が弱く、食中毒のリスクが高い調理方法と言われています。


ですが、実は低い温度でも時間をかけることでタンパク質は変性させることができます。

低温での殺菌

丈夫なタンパク質であるコラーゲンでも、55℃という低い温度から変性が始まります。
低い温度でも、長時間加熱することでコラーゲンを変性させられるというのは前回解説しました。

通常の殺菌は高い温度で一気に殺菌するものです。対してそれより低い温度帯では、時間をかける事で殺菌が可能です。
この殺菌方法を低温殺菌(パスチャライゼーション)といいます。

低温殺菌とその時間

殺菌に使う加熱時間は、厳密にはD値やZ値と言うもので計算します。
この値は、菌の種類によって違い、まとまっている資料も限られますので、家庭での運用は非実用的です。(おそらく商業的にも)

なので、ここでは厚生労働省が出している食品衛生法関連の「食品、添加物等の規格基準」というものを見てみます。
www.mhlw.go.jp

他にも参考になるものはたくさんあるのですが、シンプルなのでこれを紹介します。

規格基準を読み解く

この規格基準と言うのは、「食品を作るときは、こういう基準で調理してね」というガイドラインみたいなものです。
食品別に基準が分類されていますが、今回は肉なので「食肉製品」のうち、「特定加熱食肉製品」の項目を参照します。

おそらくこれが低温調理した肉に適した分類です。読み進めていくと、下記のような記述があります。


製品は、肉塊のままで、その中心部を次の表の第1欄に掲げる温度の区分に応じ、同表の第2欄に掲げる時間加熱し、又はこれと同等以上の効力を有する方法により殺菌しなければならない。

第1欄 第2欄
55° 97分
56° 64分
57° 43分
58° 28分
59° 19分
60° 12分
61° 9分
62° 6分
63° 瞬時

具体的な加熱時間は?

先の表の時間加熱すれば、安心できそうです。
ただし、「その中心部を」という記述がありますので、この表をそのまま鵜呑みにしてはいけません。

この表に乗っているのは、中心部を指定の温度に保つ時間ですので、その温度に到達するまでの時間は含まれていません。

肉は通常冷蔵保存しますので、低温調理開始時の温度は5℃~10℃程度です。
そのため加熱時間は、この肉塊の中心温度が目的の温度に到達する時間(A)と、殺菌のために維持する時間(B)の足し算になります。

(B)の時間は先程の表から取るとして、問題は(A)です。

(A)の時間は、

  • 肉のサイズ
  • 肉の初期温度
  • 湯温

に依存します。これが曲者で、低温調理のハードルを上げていると考えています。
だってどうやって計算しろっていうのさ!!肉の熱伝導率なんて知らん!(実際はできるけど)

ではどうするか

とりあえず、長い時間加熱してみましょう。
夜寝てから朝起きるくらいの時間加熱しておけば、問題ないでしょう。

…というのも芸が無いですし、毎回の調理で一晩かかるのも馬鹿らしいです。
もう少し食材や病原菌と向き合うと、もっと上手な低温料理ができます。




長くなったので、今回はここまで。
次回は、加熱時間との付き合い方について解説したいと思います。

肉加熱について ― 低温調理の「ロ」

肉を低温調理したい!

前回の記事では温泉たまごを題材として、加熱温度と時間の重要性を学びました。

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次は肉です。肉を低温調理すると、やわらかーい肉になります。
卵よりもちょっとだけ複雑なので、詳しく説明したいと思います。

まず肉を知る

普段私達が食べる肉は動物の筋肉で、約75%の水と20%のタンパク質と、そのほか脂肪分でできています。

タンパク質のほとんどは、筋肉を動かすための筋繊維と、それを固定する結合組織で使われています。
筋繊維の主成分はミオシンとアクチンというタンパク質が占めます。これは柔らかいタンパク質です。

それとは別に、筋繊維をまとめるための結合組織としてコラーゲンが含まれています。
コラーゲンは組織をまとめる役目を持っているので、かなり硬く、丈夫なタンパク質です。

肉を加熱すると固くなる?

加熱により肉には大きく3つの変化が起こります。

  • タンパク質が変性する
  • 水分が抜ける
  • コラーゲンが溶ける

アクチンとミオシンはタンパク質なので、変性すると縮んで固くなります。

また、アクチンとミオシンが変性して縮むと、肉全体も縮みます。肉は75% が水ですから、水を吸ったスポンジを絞るようなイメージで、肉から水分が絞り出されてしまいます。
すると、ボソボソした感じに硬くなってしまいます。

一方、コラーゲンは加熱により溶けて柔らかくなる性質を持っています。
しかし、この反応には時間がかかるため、通常の加熱ではコラーゲンはほとんど溶けておらず、肉は固いままです。

加熱によって、

  1. もともと柔らかいタンパク質が固くなり
  2. 水分が抜け
  3. 固いタンパク質が固いまま

になってしまうのが、固い肉の正体です。

やわらかい肉

つまり、やわらかい肉にするには、

  1. もともと柔らかいタンパク質をやわらかく保ち
  2. 水分が抜けないようにし
  3. コラーゲンをやわらかく

してあげればいいのです。

柔らかいタンパク質をやわらかく保つ

ここでは、アクチンとミオシンに注目します。

この2つのタンパク質の内、アクチンの変性がやわらかさに影響します。

加熱によりアクチンが変性してしまうと全体が縮み、内部の水分を肉汁として放出してしまいます。

一方、ミオシンは変性していないと、ぐにぐにした生肉の食感が残ってしまいます。

ミオシンは食感に影響するので、変性してほしいタンパク質です。美味しいお肉であるためには、ミオシンのみが変性しアクチンが変性しない状態がベストです。

温度で言うと、ミオシンは50℃から、アクチンは66℃から変性が始まります。
幸いなことに、ミオシンのほうがアクチンより低い温度で変性が始まります。つまり、50℃以上66℃の温度で加熱してあげれば、柔らかいタンパク質をやわらかく保つことができます。

水分が抜けないようにする

これは、アクチンが変性しない温度で加熱すればとりあえず解決。

コラーゲンをやわらかくする

これが曲者です。

ローストビーフにする肉などは、そもそもやわらかいのであまり気にする必要はありませんが、角煮などすこし固い(筋っぽい)肉を低温調理する際は、コラーゲンも柔らかくすることを考えたいです。

コラーゲンは丈夫なタンパク質なので、柔らかくするには煮込むなど、時間をかけて加熱するしかありません。

この時、通常1時間以上の煮込み時間が発生します。圧力鍋を使って到達温度を上げることで時間を短縮できますが、アクチンが変性しきってしまうため、ダメです。

ではどうするかというと、低い温度で時間をひたすら掛けるという手があります。
実は、コラーゲンの変性は55℃からゆっくりと始まります。
低い温度では反応に時間がかかるのですが、それでも24時間程度加熱することで十分な効果が期待できます。

まとめ

低温調理でやわらかいお肉にするためには、55℃以上66℃以下で加熱することが重要でした。また、コラーゲンの変性を起こすために、長時間加熱することも有効だとわかっています。

ここまでの知識があれば、低温調理でやわらかな肉料理を作るのは難しくありません。

ただし、安全な料理とは言えません。
低温調理では、低温で調理するために、加熱による殺菌効果がどうしても弱くなりがちです。

次回は仕上げの低温調理の「ハ」として、殺菌について解説したいと思います。

温泉たまごを作る ― 低温調理の「イ」

温泉たまご=低温調理

半熟たまごとは違い、白身がゆるく黄身が固まっているものが温泉たまごです。
そのまま食べてもいいですし、カレーライスや丼などの付け合せとして活躍します。
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温泉たまごには、低温調理の肝が詰まっています。書道における「永」の字みたいなものです。
低温調理とは、という難しいところに触れる前に、まずは温泉たまごを作ってみましょう。

用意するもの

  • 鍋にたっぷりのお湯
  • 温度計

卵は2つぐらい。

お湯は大きな鍋に沸かします。3Lぐらいあればいいでしょう。カレー鍋ぐらいですかね。
温度計を使って、湯温を70℃にします。多少高くてもいいです。

調理

卵をお湯の中に入れ、蓋をします。30分待ちましょう。以上です。
はい。簡単です。が、これだって立派な低温調理です。

できたら早めに食べましょう。ダシや醤油をかけて……。

保温しなくていいの?

今回は温度維持をしていませんが、30分の短時間加熱なのでOK。
卵に対して十分に水の量があれば、蓋だけで保温しなくても問題ありません。
ただし、調理するたまごの数が多かったり、お湯の量が少ない場合は保温する必要がでてきます。

低温調理のポイント

低温調理に重要なポイントは温度時間の2つです。

温度

なぜお湯の温度を70℃にしたのでしょうか。
それは、卵の黄身と白身で、固まる温度が違うからです。

そもそも、卵が固まるのは加熱によって卵白や卵黄に含まれるタンパク質が変性するためです。
タンパク質には無数の種類があり、生物の体を構成しています。
卵白と卵黄は、それぞれ含まれるタンパク質が異なるため固まる温度が違うのです。

それぞれの固まる温度をまとめました。下の表を見てください。

卵黄 65~70℃
卵白 75~78℃

このように、黄身の方が固まる温度が低いです。

この変化は、急峻なものではありません。白身を75℃に加熱した場合、全部固まってしまうわけではなくて、じわりじわりと固まっていきます。
温泉たまごでは、加熱により卵白の一部が変性して、透明だったものが白く濁ります。
結果、卵黄はしっとりと固まっていて、おいしい温泉たまごができあがります。

時間

では、なぜ30分放置したのでしょうか。
簡単です。芯まで温まらないからです。

ものに温度が伝わるためには、それなりに時間がかかります。
温泉卵ではじっくり加熱して、中心にある黄身を70℃に到達させたいのです。

半熟卵との対比

ゆで卵では、熱が伝わるのに時間が必要なことを利用し、芯まで火が通っていない状態を故意に作ることで食感の違いを実現しています。

卵を茹でる事によって、お湯の熱が卵の表面からだんだんと中心に熱が伝わっていきます。
鍋のお湯の温度は一定(熱湯、100℃近く) なので、卵の中心温度(茹で加減) は茹でる時間に依存します。

一方、温泉たまごは十分な加熱時間を確保することで、芯まで一定の温度にすることと、卵白と卵黄の性質の違いを活用して
食感の違いを実現しています。

お湯の温度は一定(温泉たまごの場合は70℃程度) なので、十分な時間継続して加熱することで、卵の中心温度は湯温に依存します。

まとめ

低温調理では、温泉たまごをつくるときのように「低温」で「長時間」の加熱が重要になります。

温度は食材に適した温度で加熱する必要があります。温泉たまごを作りたい場合は70℃で加熱しますが、
そもそも固茹で卵を食べたい場合は78℃以上で加熱する必要があります。

また、中心まで十分に加熱されるだけの時間は(少なくとも)加熱する必要があります。

食中毒の危険は?

今回雑な加熱をしていますが、これは、卵が生食できるのを前提としているからです。
これだけ手軽なのは、卵を使っているからで、肉を使う場合はもう少し丁寧にしなければなりません。
肉で同じことをしてはダメです。

卵の中は基本的に無菌です。3万個に1つ程度サルモネラ菌が混入している危険があるそうですが、
卵の賞味期限はサルモネラ菌の混入があったとしても生で食べられる期間を示しているそうなので、よっぽど大丈夫でしょう。
卵とサルモネラについて | 食中毒 | お役立ち情報 | 株式会社 東邦微生物病研究所

ただし、ひび割れた卵はその限りではないので、十分加熱して食べましょう。

卵じゃなくて、肉を調理したいんだけど?

それは、次回の低温調理の「ロ」で説明したいと思います。

では今回はここまで。