肉加熱について ― 低温調理の「ロ」
肉を低温調理したい!
前回の記事では温泉たまごを題材として、加熱温度と時間の重要性を学びました。
次は肉です。肉を低温調理すると、やわらかーい肉になります。
卵よりもちょっとだけ複雑なので、詳しく説明したいと思います。
まず肉を知る
普段私達が食べる肉は動物の筋肉で、約75%の水と20%のタンパク質と、そのほか脂肪分でできています。
タンパク質のほとんどは、筋肉を動かすための筋繊維と、それを固定する結合組織で使われています。
筋繊維の主成分はミオシンとアクチンというタンパク質が占めます。これは柔らかいタンパク質です。
それとは別に、筋繊維をまとめるための結合組織としてコラーゲンが含まれています。
コラーゲンは組織をまとめる役目を持っているので、かなり硬く、丈夫なタンパク質です。
肉を加熱すると固くなる?
加熱により肉には大きく3つの変化が起こります。
- タンパク質が変性する
- 水分が抜ける
- コラーゲンが溶ける
アクチンとミオシンはタンパク質なので、変性すると縮んで固くなります。
また、アクチンとミオシンが変性して縮むと、肉全体も縮みます。肉は75% が水ですから、水を吸ったスポンジを絞るようなイメージで、肉から水分が絞り出されてしまいます。
すると、ボソボソした感じに硬くなってしまいます。
一方、コラーゲンは加熱により溶けて柔らかくなる性質を持っています。
しかし、この反応には時間がかかるため、通常の加熱ではコラーゲンはほとんど溶けておらず、肉は固いままです。
加熱によって、
- もともと柔らかいタンパク質が固くなり
- 水分が抜け
- 固いタンパク質が固いまま
になってしまうのが、固い肉の正体です。
やわらかい肉
つまり、やわらかい肉にするには、
- もともと柔らかいタンパク質をやわらかく保ち
- 水分が抜けないようにし
- コラーゲンをやわらかく
してあげればいいのです。
柔らかいタンパク質をやわらかく保つ
ここでは、アクチンとミオシンに注目します。
この2つのタンパク質の内、アクチンの変性がやわらかさに影響します。
加熱によりアクチンが変性してしまうと全体が縮み、内部の水分を肉汁として放出してしまいます。
一方、ミオシンは変性していないと、ぐにぐにした生肉の食感が残ってしまいます。
ミオシンは食感に影響するので、変性してほしいタンパク質です。美味しいお肉であるためには、ミオシンのみが変性しアクチンが変性しない状態がベストです。
温度で言うと、ミオシンは50℃から、アクチンは66℃から変性が始まります。
幸いなことに、ミオシンのほうがアクチンより低い温度で変性が始まります。つまり、50℃以上66℃の温度で加熱してあげれば、柔らかいタンパク質をやわらかく保つことができます。
水分が抜けないようにする
これは、アクチンが変性しない温度で加熱すればとりあえず解決。
コラーゲンをやわらかくする
これが曲者です。
ローストビーフにする肉などは、そもそもやわらかいのであまり気にする必要はありませんが、角煮などすこし固い(筋っぽい)肉を低温調理する際は、コラーゲンも柔らかくすることを考えたいです。
コラーゲンは丈夫なタンパク質なので、柔らかくするには煮込むなど、時間をかけて加熱するしかありません。
この時、通常1時間以上の煮込み時間が発生します。圧力鍋を使って到達温度を上げることで時間を短縮できますが、アクチンが変性しきってしまうため、ダメです。
ではどうするかというと、低い温度で時間をひたすら掛けるという手があります。
実は、コラーゲンの変性は55℃からゆっくりと始まります。
低い温度では反応に時間がかかるのですが、それでも24時間程度加熱することで十分な効果が期待できます。
まとめ
低温調理でやわらかいお肉にするためには、55℃以上66℃以下で加熱することが重要でした。また、コラーゲンの変性を起こすために、長時間加熱することも有効だとわかっています。
ここまでの知識があれば、低温調理でやわらかな肉料理を作るのは難しくありません。
ただし、安全な料理とは言えません。
低温調理では、低温で調理するために、加熱による殺菌効果がどうしても弱くなりがちです。
次回は仕上げの低温調理の「ハ」として、殺菌について解説したいと思います。